4493人が本棚に入れています
本棚に追加
「左衛門ッッ!!」
景健は直隆の名を叫び挙げると共に眼を開けた。
そして反射的にすぐさま起き上がり、顔に冷や汗を滝の様に流しながら首と体を大きく揺らして直隆が居ないかと見渡す。
しかし直隆の姿はどこにも居らず、それおろか場所が河原ですらなくどこかの室内であり、また代わりに映ったのは口を開いたまま面を喰らったかの様な顔で景健を見る家臣の姿であった。
「景健様ッ!!意識が戻られましたか!!」
側に居た家臣の言葉すら耳に入らないほどに動揺する景健は直隆を探し、眼を見開いて相手の肩に掴み掛かる。
「左衛門は何処だッ!!左衛門は何処にいるッ!!」
「おっ、落ち着いて下されッ!!真柄殿は……真柄殿は関ヶ原での殿軍の務めを最後まで全うされました」
この告げられた言葉に景健の動きが止まり声を失う。
「…………死んだ?左衛門が死んだというのか」
「その前に多く動きすぎないで下されッ!!傷口がまた開いてしまいますッ!!」
「……傷?」
家臣の制止を聞いて、景健は自身の脇腹にサラシが巻き付けられているのに気がつき、それを認識したと同時に激痛が走り膝を着いてしまう。
だが激痛よりも直隆が死んだという事に、心に穴が空いた虚無感に襲われて押し潰される方が大きかった。
「関ヶ原はどうなった、義景様は御無事なのか」
景健は死んだ眼をしながら蚊の鳴くような声で呟く。直隆が命を投げ打って守ろうとした義景は生きているのかと問うたのだった。
「義景様は御存命で御座います。しかし関ヶ原にて殿軍を務めた者たちは悉く討死されてしまわれました」
皆は言葉通りに死力を尽くしたというのに、自身は生き恥を晒したと思うと屈辱を感じる。
最初のコメントを投稿しよう!