己の天下

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「何が盟約か、こんなもの自身が切る事ができる様にそれ以上の歩みを進まんかった。信忠殿の天下を見たいなどと吹きながら何一つ行動に起せてないんや」 顕如は信忠が語る天下に動かされ、織田家との盟約を結んでいる。だがこれはあくまでも顕如と信長との個人的な盟約に過ぎず、織田家と本願寺の正式なものではない。 当然顕如はできるものなら正式に結びたいとは思ってはいるも、門徒には大名という存在そのものを忌み嫌っている者が多い為にそれによる反動を恐れるが故に行動に起せないでいたのである。 「それで、旦那。そんなに変われない事を恐れながら、今回も何もしないで済ませるのか?」 「……どういう意味や」 表情を赤く青くと様変わりする顕如を見て、孫一は呆れ顔でため息を溢しながら言葉を投げかける。 「旦那は朝廷の為に織田を捨てるんだろ?だったら王法為本とやらにしたがって、俺たち雑賀衆を朝倉軍に合流させるのが道理だろ」 「それは……わかっているが」 「あんたが比叡山と敵対した時、命じれば雑賀衆は織田でも朝廷でもやりあってやると言っただろ?何故、できる事がありながら何もしない?」 孫一の言葉に返す言葉がなく、顕如は己が未熟さに歯ぎしりを立てる。 自身は考えてみれば中途半端な行動ばかり。信長と盟約を結び、比叡山延暦寺との敵対を露にするも明確な行動を移せず、朝倉家を抑える為の加賀は動かせず、大きな貢献は残せていなかった。 しかしその逆に織田家は本願寺とは寛容に接していた。金銭の寄付を行い寺院の修復にも尽力したりとしっかりと行動に移している。 できる事がありながら、顕如は理由を付けて迷うだけだった。
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