己の天下

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「……雑賀衆は中立を保つ為の武力や」 「戦乱の世で武力無くして中立は有り得ないってか?」 中立でいるというのは、単純に戦争を続けるより難しい立ち居ちを強いられる。 他国との利権調整や存在を必要とされるための独自技術や生産物、また外交に至っては大国相手にも常に優位に立てる条件を揃えなければならない。   本願寺は摂津の地で水路や陸路の利権を独占する事により、金銭と人員の確保ができるからこそ成り立てているのだ。 だがそれに対して孫一は鼻で笑う。 「まさかと思うが、中立でいれば安全を買えるなんて考えてないだろうな?」 「……何が言いたいんや」 「表側では中立を計り、朝倉に味方していた比叡山延暦寺を忘れたか?」 しかし延暦寺は炎上した。本願寺と同じく中立であり優位性を維持したまま滅ぼされた。 その言葉に顕如はただ視線を逸らしたまま黙っており、話が続けられる。 「旦那が官軍の檄文を見て、最初に思った事を言ってみな」 「…………本願寺の使える金銭を用いて、紀伊を中心に多くの傭兵と牢人を雇い入れ、京に移動する三好勢を背後から突く」 「ハハハハッ!!何だ、旦那!!真っ先に思った事は、10,000近い三好をどう潰すかなのか!!」 そして顕如が応えたそれに、孫一は面をくらい思わず笑い出してしまう。 何だかんだと御託を並べておきながら、彼の心には敵を抗う意思だけでなく対処方法まで考えているのかと。 「迷う事に何が悪いか、考えを巡らして答えを見つける。間違えたら補って学べばいい。俺とて迷い考えた末にこの場に残っているんだ」 「……如何なる道であろうと、後悔はせぬか」 「道が辛ければ、共に楽な渡り方を考えればいいさ」 問いに対して孫一はすぐさま肯定の意を応え、その様子に顕如は小さく笑った後に立ち上がった。
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