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信長が次なる手を考えていると、勢いよく一人の男が前に出て頭を下げた。
「どうか、どうか信長様!!小谷城を攻めるのならば、この秀吉に先鋒として御命じ下さいませ!!」
「ほぅ、息巻くではないかサルよ」
その男は横山城城主の織田家重臣たる羽柴秀吉。顔を挙げると表情には満面の笑みを見せており、愛嬌あるその姿に信長も悪い気はしない様子で頷く。
だが信長が決断を下す前に、もう一人の男が秀吉とは対極的にゆったりと一歩だけ前進して口を開いた。
「御待ちを。その前に某に越前への中入りを御命じ下されば、必要最低限の消耗で抑えてみせましょう」
「貴様もやる気だな、光秀」
横から口を出した男は坂本城城主の同じく重臣たる明智光秀。彼は命令さえ下されれば、朝倉家本拠地の越前に直接攻撃を仕掛けると案を講じる。
しかし自身の意見を遮られた秀吉は、内心面白くないのか光秀に見えるように頬を膨らませて無言の対抗を訴えていた。
だが肝心の光秀は、その行動がどれほどの怒り加減なのかがいまいち伝わらずに若干の困惑を示し、それと同時に年を考えろと口を滑らしそうになる。
両者一歩も退かず譲らない様子に信長は吟味するが、またも横槍を突く者が現れた。
「御待ちくだされ父上。攻める前に私に一つだけやりたい事が御座います」
「ほぅ、何をしたい我が息子よ」
秀吉と光秀の二人を割り込むように、織田信忠が信長の目の前に立つ。
そして目を逸らすことなく、信忠が胸に秘める案を堂々と発した。
「私が義景に降伏を呼びかけます。一任して下され」
「うむ、構わぬ。お前も一端の将だ、励めよ」
やりたい事とは、信忠本人が義景に対して降伏を呼びかけるという内容であり、周りの家臣にはどよめきが走るが信長はあっさりと了承する。
その後ろで丹羽長秀が心労のあまり目眩で倒れかけた。
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