己の天下

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所変わって小谷城、かの城は浅井家が誇る堅牢な山城であるのだが、本丸では朝倉義景と浅井長政が苦悶の表情を浮かべながら項垂れていた。 「すまぬ、長政殿。負け戦に巻き込んだ」 「よしてくだされ。金ヶ崎の時より、如何なる結末とて後悔はありませぬ」 義景は謝罪の言葉と共に静に頭を下げるが、長政は責める気など微塵も見せずに頭を上げさせる。 長政は最終的には自身の判断で織田家を捨てて朝倉家と共に乱世の道を歩む事を決めたのだ。 その判断を悔いて、義景を怨んで自分だけ悲劇の主人公を演じるなど愚劣の極まりといえよう。 「しかし、次なる手は如何致しますか。山は織田軍に包囲されています」 「加賀、越前には僅かな守備兵しか残しておらぬ、可能な限り迅速な帰還を果たしたいと考えている」 「……やはり決戦、ですか」 決戦という単語に二人は神妙な顔つきで眼を合わせる。 まず越前が上杉家の脅威に晒されているとなれば、籠城は朝倉にとって避けたい選択である。 また朝倉と浅井の軍勢を合わせたら、織田軍18,000と並ぶ兵力を整える事は可能であり決戦を仕掛けられる事はやれなくもない。 しかし織田軍との決戦後に、続けざまに上杉軍とも決戦。連戦に次ぐ連戦と大返しなど朝倉軍の疲労は無視できるものではなくなる。 「義景様、火急の用故によろしいでしょうか!!」 「入れ、何事か」 火急の用と言い家臣が血相を欠き、返答を聞き慌てて襖を開けられる。 「織田家より降伏勧告の使者が登城しました!!」 「……来たか、話は聞くので使者を通せ」 「それと……織田信忠が義景様と二人だけで話し合いをしたいとも」 続けて言われた内容に義景に驚きはなかった。そして一度だけ頷いて立ち上がる。
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