己の天下

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前の時代という意識を明確に持ち合わせているのは、現時点で信忠自身と義景の二人しかいない。 この不明確な事項を少しでも知る事ができるのならば、今後どれほど大きな価値になるか計り知れなくなる。 わざわざ一人で現れたのは、この話をしたかったのかと義景は心の中で納得しながら、ゆっくりと口を開く。 「こっちも少々調べてはみた。その結果、儂なりに一つの結論が出た」 結論の内容に興味津々の信忠は、体を喰いかかる様に前のめりにしながら話を聞く。この姿に義景は小さく笑いながら改めて言葉を続ける。 「今この世は、我らが知っている世とは似て非なるものではないかと思っている」 「前の生きていた時代と今の時代はまったくの別だと?」 「前の時代と今の時代では少なからずの相違はなかったか?例えば、儂らは二ヶ月前、加賀攻めの折に大聖寺城を攻め落とした」 大聖寺城という単語に信忠は引っ掛かり眉をひそめる。 「大聖寺城は確か……前の時代で当家が修復させるまで廃城されていた筈では」 「前の時代では永禄十年に焼き払われていたのだが、この時代では大聖寺城は破棄されなかった」 かの城は、1567年に朝倉家は一向一揆との和睦の折に再利用されないように焼き払い廃城されている。そして1575年にて柴田勝家が修復するまでは日の目を見る事はなかった筈であり、今と前で明確な相違が現れていた。 また信忠にも時代の相違には心当たりがあった。 先の戦いで真柄直隆と戦った馬廻り衆の岩室重休。彼は1561年の小口城攻めの際に討死している筈である。 何よりもこの時代で自身が目を覚ました場所は、宇佐山城であった。だが信忠は元服までは岐阜城に居り、宇佐山城には赴くおろか実物すら見た事はないのだ。
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