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義景の仮説に頭の整理が追いつかずに信忠は言葉を詰まらせるも話を続ける。
「つまり我らが過去に戻ったのではなく、過去に戻ったのだと錯覚しているという事か?」
「そうだ。解かりやすくいうならば、この時代に儂がいるように他の時代にも同じような儂がいるとする。この時代の儂が何らかの瞬間に自分を儂だと感じ、また他の時代の儂が何らかの瞬間に自分を儂だと感じている」
「だが意識が移り変わる瞬間を感じ取る事はできないというわけか」
「否、それは少し違う」
信忠の続いて出た結論に対して義景は待ったを掛けた。
「完全に感じ取れないわけではないと考えている。例えば、寝ている時に浮かび上がる夢などを見たとき、その光景が現実と酷似していた事はないか?また、初めて見る光景を知っている感覚に思った事はないか?」
つまり正夢やデジャヴに似た感覚などが意識が移り変わっている名残ではないかと想定する。また信忠は僅かなれど過去の記憶を残しているような言動を見ていた。
まず朝倉景鏡が名残を見せていた。彼は松尾山戦の折に異様なまでの忠義を表し、最後は"二度も義景様を裏切れないと"言って戦い抜く。
そして松姫もである。躑躅ヶ崎館で信忠と二人は初めて会ったにも関わらず、互いにすぐに相手が誰だか理解でき、何より彼女は一度だけではあったが"知る筈のない信忠という名"を使って呼んでもいた。
「ならば、今目の前にいる義景殿は私の知っている義景殿ではないという可能性もあるという事にもあるか」
「……っと、なるか。それは誰にも解らんし、知りようもないのだがな」
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