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小谷城から帰陣した信忠は、すぐさま信長に事の次第を説明する。
義景の死を受け入れてまで祖国を救わんとする覚悟を伝え、継いだ意志を護る為に救援軍を編成するべきだと拳を振り上げて弁を振るったのであった。
だが事は信忠の意を反する。
「降伏の受け入れ、朝倉・浅井将兵の安全も受け入れよう。だが直ぐには承諾せぬ」
「なっ!?越前と加賀の危機に一刻すら惜しいのですよ!!何故に承諾を先延ばすのですか、父上ッ!!」
しかし信長だ述べた応えは時間稼ぎともいえる保留であり、信忠は驚きのあまり声を荒げてしまう。
「取り乱すでない、情だけに流されずに大局を見据えるのだ」
「確かに今の私は情に流されているやも知れませぬ。しかし大局の面としても義景の遺言という大義名分の元に越前と加賀の統治権を得られるではありませぬか!!」
「それが青いというのだ。大名たるものが誠に統治を得たいというのであらば、情ではなく利で先を考えてみせよ」
信長の言葉に信忠は顔を赤くしながら歯を喰いしばる。確かに大義名分は得られるであろうが、それだけでは越前と加賀の民を掌握するには要素が足りない恐れがあると心のどこかでは理解していたからでもある。
このまま何事もなく降伏を受け入れるとなれば、万人以上の朝倉軍が健在となってしまう。そして織田と朝倉の溝が残る最中、これが戦後の統治の際に大きな影響を及ぼすやもしれない。
ならば如何にして遺恨を残させないか、それは信長の言う降伏の長引かせこそが鍵となる一手であった。
そして信忠もその一手が有効であると理解できるが故に言葉に詰まってしまう。
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