己の天下

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越前と加賀を救ったのは朝倉ではなく織田であるという認識を強く持たせる必要があるのであった。 つまり降伏を先伸ばしにする事により、敢えて上杉軍を朝倉領の深くまで進軍させて民の怨みを集めさせる。そこで二万を及ぶ織田の軍勢が満を持して救援として参戦する算段であろう。 これにより朝倉家は間に合わなかったという印象を民に植え付けて、織田家こそが絶対的な力の保持者だと言わしめさせる宣伝効果ともなる。また、いっそのこと上杉軍の手によって全てを焼き払われた方が統治に手を加えやすくもなる。 人の心を横から掴むのあらば、相手を徹底的に追い詰めた後に手を差し伸べきであるのだ。 理解はできる。だがしかし道理だけでは信忠の心が晴れはせず、信長はその様子を見て口を開く。 「ならば問う、今すぐに降伏を受け入れるとなれば何を得られるか」 信長が直々に問いただした。これは与えられた一度きりの機だと心得た信忠は、すかさずに頭を下げて大きく息を吸い上げる。 「はッ!!まず加賀の国ですが、かの国はつい最近まで本願寺の門徒が地を治めていたという事を忘れてはなりませぬ!!」 まず信忠が発した内容に信長は無言のまま鑑賞するように顎鬚を撫でる。 「必然的に加賀には依然として多くの門徒が存在していると考えられます!!故に彼らを見捨てることは、同門たる本願寺顕如殿の立場を鑑みれば無視できない事柄にあります!!」 元々、加賀の地は一向衆が長年統治していた事もあり門徒も多い。そして今回織田家の窮地を救った本願寺顕如の恩を返すためには、それらを見捨てるのは心境が悪くなる。 信長とて本願寺が味方になるという利点は捨てきれないという考察からの発言であった。
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