己の天下

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信忠の持つ天下とは何たるかを聞いた信長は刀を突きつけたまま黙して立ち止まる。 それはものの数秒の間であったが、信忠にとっては数十分とも錯覚してしまうほどの間であった。 そして信長はゆっくりと刀を離して柄に戻し、改めて口を開く。 「信盛、評せ」 信長は急に視線を変えて、後ろに控える佐久間信盛に声を掛ける。それに対して信盛は少し唸りながら信忠を見た。 「そうですな、見据えているものが最初と最後しか具体的ではありませぬ。まずは物事のカラクリを学ばせるべく政に励ませ経験を積ませるべきかと」 信盛の応えに信長も何度か頭を頷かせて、次は柴田勝家に視線を向ける。 「権六、お前はどうか」 「政に関しては信盛殿に異論ありませぬが、攻めるべき目標を揺るぎなく明確にするは上々かと。戦にて浮き足だった行動では勝てるものも勝てませぬ」 「勝三郎はどうか」 「ぅやぁぁぁああぁ、あの小さかったぁぁ奇妙丸がぁぁ、こんなに立派ぁぁあに」 「何言ってるかわからん、次は五郎左」 続いて勝家も評価するように言い、信忠の成長を見た恒興は感涙のあまりにむせび泣いていた。 その後も信長は次から次へと重臣たちに問い続けて、信忠に対する評価や意見が多く出され続ける。 そして急な状況の変化に信忠の頭は整理しきれず、思わず視線を彼方此方に動かしながら首を傾げてしまう。 「うむ、課題は多いが概ね想定の範囲内であるな」 「あの……父上?これはいったい?」 「まず先にこれを受けとれ」 信忠は先ほどの殺伐とした雰囲気とは一辺して、楽しげに重臣の話を聞く信長に理解できず声を掛ける。 すると信長は口角を僅かに上げながら、柄に入れ直したばかりの刀を突き付けるように渡した。
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