己の天下

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信忠は信長から渡された刀を手に取ると、それの正体に眼を疑ってしまい思わずたじろいでしまう。 「これは……宗三左文字で御座いますか」 刀の名は宗三左文字。これは信長が今川義元を討ち取った際に手に入れた愛刀であり、それを手にしたというのは大きな意味を持つ。 「こいつは当時の日ノ本で唯一天下たるものを見据えた男が持った刀である。そして刀と共に儂はかの意志を受け継いだ」 1560年、駿河の王たる義元は25,000の軍勢を率いて上洛を目指す。そしてその折に信長はそれを討ち破るという、世に名高りし桶狭間の戦いが起こる。 だがそれは同時に泰平の世を創れる者を殺したというのは、信長が戦乱を伸ばしてしまったとも同じ意味を持っていた。故に信長は義元の刀と共に、彼の泰平たる天下統一という志を継いで成し遂げんと心に誓っていた。 そしてその刀が信忠を受け取ったという事に意味がある。 「その刀は生ける万人を守る責務と死に逝った万人の志を宿されている。お前にそれが持てるか」 信長の問いかけに信忠は息を呑む。そして己が握りしめる刀の重さを再認識して強く握りしめた。 「この信忠、必ずやご期待に応えてみせまする」 「よくぞ申した。ならばこの織田弾正忠信長の名に於いて命ずる、各大名の仕置きが終え次第、織田家の家督は信忠に譲る」 「我ら家臣団一同、祝着至極を申し上げます」 そして信長は家臣の前で家督を信忠へ譲ると明言し、皆はそれに賛同して深々と頭を下げる。 「大変結構、然らば義景の降伏を受け入れる。即刻に使者を送ってやれい」 問答を終え、上機嫌に笑う信長は信忠の肩を両手で叩きながら朝倉家の降伏を良しとした。
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