己の天下

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義景の降伏受け入れの旨は即座に伝えられた。そして後日、切腹となり朝倉・浅井将兵共々の赦免で相成る。 然らばこの日の内に、義景は朝倉将兵を招集され、織田への恭順の誓書を記しめ遺領等の話を終え、本国の妻子と共に家臣への書状を認めた。 次いで長政に敗戦の責務を取ると伝えた後、二人は共に一献だけ酒を飲み交わす。朝倉・浅井家臣からは降伏反対の者も多くでたが、義景本人の説得により其の方らを鎮めつかまつる。 当日の夜明け、義景は行水にて身を清め、次いで髪を結い白無地の小袖と同じく無地無紋の裃を着衣なされ御出になられる。 具足を着込み頭を下げる家臣の前を通り行き、信長、信忠を初めとする織田従者と長政、景健なる朝倉・浅井将兵の待つ間に入室なされ候。 座した義景は用意されし、湯漬けと香の物を三切れを食され箸を置かれ、介錯人たる毛利良勝より杯に酒を注ぎ遣わされ候。 膳を下げ、次いで九寸五分の短刀を受け取り、良勝は義景に対し名を名乗り一礼され、後ろに回り介錯刀に水柄杓で水を掛けて清め、八双に構えなさる。 して義景は、黙礼後に右から肌脱ぎ致す。左で刀を取り、右手を添えて押し頂き峰を左に向け直し、右手に持ち替え左手で三度腹を押し撫で、へその上一寸ほどへ左から右へ刀で突き立て腹を召され候。 一同見届け、義景が刀を引き回す所で、良勝は刀を振り下ろされ首を皮一枚残して斬り終え役目を全う致す。 かくして敵味方双方問わず、責務を務めし義景に深々と頭を下げまする。 切腹終えし後に表裏白張り白縁の屏風をめぐらせ、敷絹で死骸を包み棺に納め候。 朝倉左衛門督義景、骸を地に沈めとも、その名は永久へと語り継がれし名君たらんと。
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