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「松姫は敵である武田家の子、敵と警戒される他家からの嫁ぎの大変さはよくわかるわよ」
濃姫は松姫を撫でながら、昔を思い返すように天を仰ぐ。
尾張の隣国、美濃の大名たる斎藤道三の三女として生まれた彼女は、齢14の時に信長に嫁いだ。
しかし当時の尾張は派閥が割れて不安定な状態であり、何より道三は下剋上で成り上がった男という風評もある事から警戒されてしまっていた。
「して、義母上は如何にして父上との仲を深めたのですか」
「あらあら、それがダメって言ってるじゃないの。私たちお互い初対面の上にまともな恋もした事なかったのよ?」
信忠の質問に対して濃姫は、優し気に微笑みながら首を振って扇子の先を突き付ける。これに気圧されてしまい思わず口を噤んだ。
「恋の仕方は十人十色。他人に教わるのではなく、二人で時間を掛けてゆっくりと模索しなさい。たとえ答えが遥か遠くとも、その過程すら大事な一時となるのが恋の醍醐味よ」
「義母上……それはつまり、松姫と共に歩んでよいと?」
「あらあら、愛する子の初恋を応援しない筈ないじゃない」
二人で時間を掛けて模索する。即ち松姫を受け入れると迷いなく言い切り、信忠と松姫の表情に笑みが零れた。
そして二人はすぐに離れていた距離を詰め寄って両手を強く握り喜びを分かち合い、その姿に濃姫は楽し気に眺める。
「しかし、父上は大丈夫でしょうか?」
「将来は日ノ本を受け入れる器の人が、女の子を恐れて追い出すなんてすると思うの?それに私は織田家を乗っ取ろうとしてたけど受け入れてもらえたわよ」
「……それはそれで大丈夫でしょうか」
ついでに濃姫は父の道三に信長が能わぬ者なら殺してしまえとも言われており、実行に移していたと思い出に浸りながらあっさりと言った。
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