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喜びを分かち合う姿に満足げな濃姫は二人を寄せ抱えて抱き着き、頬ずりをしながら耳元でとある言葉を口にする。
「それはそうと二人とも、孫の顔を見るのも楽しみにしているわよ」
この言葉に二人とも顔を赤くして下を向いてしまい、言いたいことを言った濃姫はさっさと退散してしまった。
とりあえずこの空気は気まずいと思った信忠は、他の話題に移ろうと身振り合わせて慌て気味に話を逸らそうとする。
「えっと……色々と慌ただしかったですが、ついに官軍たる朝倉家を破りました。義景も切腹に処され、関ヶ原でも敵の重臣を多く討ち取りもしましたよ」
そして信忠は明るい話題をしようと勝利を収めた先の戦いを話すのだが、話している内に彼にとある異変が起きてしまう。
「奇妙丸様……泣いておられるのですかの?」
「……えっ?いや、泣いてなどは……あれ?」
信忠の頬に水滴が流れ落ちる。話せば話すほどに眼から涙が溢れ出てしまい、自身の意識と関係なく起きたこの事態に思わず手で顔を隠してしまった。
そして押し込めていた自身の感情に気が付いてしまい言葉が失う。
敵味方問わず死んでいった者があまりにも多かった。森可成もうまく立ち回れば生きていたやもしれず、彼の武勇は助けになったであろう。朝倉義景とて生きて味方となれば内政が飛躍的に向上した事は言わずもがなである。
だが皆は死んでしまった。この信忠が命じた事により殺し、そして殺された。
元を正せば敵である朝倉家とて、泰平の世を創り上げるという共通の道である筈なのに何故殺し合うのか。戦乱の世という理由だけで全ての感情を押し留める理由としては不足であった。
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