甲斐の虎と越後の龍

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場所は移り変わり登能の鳳珠郡に建つ穴水城。 かの城は現在、上杉家に滅ぼされた畠山家残党1,000名が重臣たる長連龍を筆頭に籠城して最後の抵抗を続けていた。 「よいかぁッ!!我らが持ち堪え時間を稼ぐほどに織田や武田が動くだろう!!主家たる畠山に忠義を持つのならば、上杉の屑共などに屈するでないぞ!!」 「長様!!大手門の御味方劣勢、援軍を求むとの由!!」 「相分かったッ!!儂が100人を連れて直接赴く!!」 そして上杉軍は登能にて最後の城であるこれを陥落させる為、五倍の5,000という軍勢で包囲し攻城を仕掛けていたのだが、残党軍は弔い合戦という意識を強く持ち頑なな抵抗で持ち堪えていた。 だが織田・朝倉軍が加賀に入ったという情報が上杉軍に伝わったと同時に、穴水城包囲軍の元に現れた者により事態は変わる。 「なっ、長様!!大手門の敵勢をご覧くだされ!!」 その者の登場により激戦地である大手門の軍勢から毘の一字旗が上がりだし、それと同時に上杉軍からは地が揺れ響くほどの喝采が湧き、対して残党軍からはざわめきの声が次々と出てきてしまう。 毘の一字旗こそが上杉家が当主たる上杉謙信の旗印であり、すなわち彼がこの戦場に現れたという事を示していた。 「謙信だ……上杉謙信が現れたぞ……」 「くっ、狼狽えるな!!寧ろ総大将を討ち取れば我らの勝利なのだ!!」 天を衝くほどに跳ね上がった上杉軍の士気に圧倒されて残党軍の血の気が引いてしまう。 そして狼狽するこの機を逃す事をせずに、次は懸かり乱れ龍の旗が挙がって上杉軍は武器防具を叩きつけて音を鳴らし声を荒げる。 「者共ぉぉぉッ!!とぉぉつぅうううげぇぇきぃぃぃいいいいッッ!!!!」 懸かり乱れ龍。これは上杉家に於ける全軍突撃命令の旗であった。
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