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「火縄、弓、石ッ!!何でもいいから奴に当てて殺せ!!」
城に向かい走り駆ける謙信に、城兵は持てる武器を撃ち込み投げつけて殺しに掛かるも、それらは悉く外すどころか彼は騎乗しながら陶器を取り出し杯に酒を入れて嗜みだした。
その姿に上杉軍の兵は謙信の名を叫び歓喜に沸き上がる。
「つ、つつ、連龍様ッ!?謙信に攻撃が当たりませぬ!!まさか本当に毘沙門天の加護が……」
「そんなわけあるかぁ!!天佑神助なんざ水滸伝じゃあるまいし、どうせ城壁の前では足を止めるしかあるまい!!」
城壁の高さは凡そ5m、更にその下には深い溝を掘っており底には逆茂木が敷き詰められている。これを昇るには馬を降りなければいかず、下手に強行すれば溝に落ちて刺傷する事は言わずもがなである。
だが謙信は馬の脚を一切として緩める様子は見せず、そのまま城壁に向かって飛び立った。
「飛んだ!?いや……だが届いていない!!」
「馬鹿が図に乗るからだ!!そのまま落ちて無様に糞溜めへ落ちろ!!」
誰もがそのまま溝の底へ落ちてしまうと思われた瞬間、謙信の馬は城内から矢や鉄砲を放つ為の穴である狭間に脚を乗り出し、それを足場にして更に飛翔した。
飛び上がる謙信は弧を描いて城壁を悠々と乗り越え、そのまま勢いよく城兵を押しつぶして着地してみせる。
この光景に連龍の顔色は見る見るうちに青くなってゆき、相手に指をさして震えた口を開く。
「殺せぇぇ!!これ以上好き勝手させるなぁッ!!」
しかし連龍の叫び声よりも謙信は迅速に行動を開始した。左手には依然として酒が注がれる杯を持ったまま、右手の槍を持ち直して城門に向かって駆けだす。
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