甲斐の虎と越後の龍

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「上杉家から同盟の申し入れだと?」 武田家が治めし甲斐では、国主たる武田信玄と家臣団が眉をひそましてとある使者と対峙していた。 「えぇ、その通りで御座います。我らが謙信様は武田家との同盟を望んでおられます」 対峙する使者とは越後上杉家から派遣された将たる河田長親が躑躅ヶ崎館に赴き、不敵な笑みを浮かべながら堂々と胡坐をかいていた。 そして長親の口から出た話とは、上杉家は武田家との同盟を求めているという内容であり、元々は事を構える腹積もりであったのだが、突然の来訪者への対応に迫られる。 「突拍子もない内容だというのは重々存じ上げております。しかしながら、この話は双方にとっても有益な事柄であるのは間違いないでしょう」 武田家は先の徳川攻めに於いて圧倒するも、背後の上杉家を警戒するあまりに兵を退かざる負えなかったが同盟を結べば東海道方面へ兵力を集中でき、上杉家も北陸道へ攻められると互いに利はあった。 だがしかし、それを即決するわけにはいかずに重いため息をついてしまう。 「如何なされましたか信玄公?そちらにとっても徳川家に態勢を立て直す猶予は与えたくないでしょう?」 「まぁ、待たれよ長親殿。父上とて甲斐と信濃の命運を抱える身、国の命運を別つ決断を易々と下せまい。それが降伏した能登の民を虐殺した上杉家が相手なら尚更であろう?」 信玄に決断を急かす長親に対し、武田勝頼が横から毒を吐き、この発言に武田家臣は諫める事せず長親に冷ややかな視線を送り肯定の意を表す。 武田家とて志賀城攻めなどと虐殺や略奪の類いは実行しているも、今回の能登虐殺は度を越えていた。
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