人の尊厳

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憲政は関東管領職であるが、北条家により追い立てられ越後まで逃げ込んだらしい。 彼は北条家は逆賊であり関東の病原菌などと喚き散らしていたが、亡き兄ならば無視して捨てはしないだろうと思い受け入れる。 だが次は信濃の者が武田家に攻められたと言って助けを求めにきた。まるでさも当然のように自身も助けてもらえると訪れてきた。 そして我が尊厳に従い、その身を削り関東の北条家や信濃の武田家と度重なる戦を繰り広げ、越後の民の血を流し金を浪費していくもどちらも取り返すには至らなかった。 だが助けを請うた者は、己の権威など失われていると現実を受け入れられずに戦闘の継続を熱弁。結果として武田家とは11年間に渡り戦い、北条家とは10年間に渡り戦うという泥沼の中へ沈む事となる。 これにより我が上杉家は国の発展が著しく停滞してしまう。これも兄と同じ人の尊厳を護る為と言い聞かせていたが、信頼は与えた分が報いられるわけではないと突き付けられる。 和田業繁が裏切り小田氏治も裏切った。本庄繁長も裏切り北条高広と佐野昌綱は二度も続けて裏切った。謙信は偏に救うべく身を粉にしたにも関わらず、他も多くの者が裏切った。 そして人の尊厳を何とも思わない者共を見て、初めて亡き父が下剋上により何としても上へ這い上がろうとした理由を理解する。 それは人間というのはどこまでも恥も外聞も知らず、どれほども強欲であり、どんなにも卑しい存在であるというのすら理解できない家畜が故であるからだ。 ならば卑しい家畜を束ねるべく、この上杉謙信が全ての上に立ち、飼育し直して人の尊厳たるものを教育すべきなのである。 故にもう手段を選んでいられる時間などない。もうないのだ。
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