人の尊厳

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謙信の狂人が如き発言に武田家臣は狼狽して静まり返るが、信玄は小さく首を振ってゆったりと口を開けた。 「謙信よ、川中島での合戦を覚えておるか?貴様は奇襲を掛けて儂の軍配を叩き切りおった」 「ふっ、つまらぬ合戦であった。己の失った利権を忘れられぬ信濃の家畜共の為につまらぬ事をした」 「つまらなかったか……儂は正直言って興奮した。此方の渾身の戦略を見破られ、本陣を急襲された瞬間を忘れはしない。挙げ句の果てに儂の軍配まで叩き切られたのは笑ってすらしまったわい」 信玄はカラカラと笑いながら、謙信と雌雄を交えた川中島での戦いを懐かしむように話し出す。 だが謙信は突然の話しに顔を顰めるが、その様子を見て信玄は鼻で笑う。 「何が言いたい?」 「随分とまぁ、つまらない"人間"になったもんだのう」 信玄は現人神という相手の自称を真っ向から否定して、つまらない人間だと言い切った。 そして先程やられた行動を真似るように謙信に指をさしてほくそ笑む。 「神であるだ?自身が他人より上だと証明できずに不安なだけで、わかりやすい張りぼての虚像に隠れておるだけだろうが」 「……なに?」 「貴様が単騎駆けを好むのも頷ける。そこまで必死に見せつけようとするなど、まるで目立ちたがりの童だな」 再びカラカラと嘲笑い貶し、後ろに控える上杉家家臣も青い顔をして謙信の背を見ている。 「他人に裏切られる?そんなもの自身の実力不足なだけであろうが。力無き者が謀られるなど戦乱でも平時でも変わらんわい」 「黙れ……この死に損ないがッ!!」 止まらぬ言葉に、謙信は鬼の如き形相で刀を信玄の目の前に突き立てる。 「どうした自称神様よ?そんなに人間の儂が恐いか?」 だがその恐喝など気にも止めずに淡々と嫌味を吐いた。
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