人の尊厳

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「感情的になるのは自覚ある証明。声を荒げるのは論理にて返せぬ証明。そしてこの二つは無能なる証明。勉強になったか三下の謙信?」 「貴様……」 信玄の挑発に歯軋りを立てる謙信は、勢いよく振り返り上杉家臣に睨み付ける。 「鳴らせ……法螺貝を鳴らせぃッ!!」 「ぎょ、御意ッ!!」 怒濤の勢いで咆哮する謙信に狼狽してしまうも、慌てて外に出て法螺貝を吹き鳴らす。 そして法螺貝の音が連鎖するように一つまた一つと増えてゆき、瞬く間に小県郡全域を包み込むほどに音が増えた。 この事態に武田家臣は目を細め、腰の刀の柄に手を伸ばす。 「どうだ、ご老体?良き音色であろう?」 外から響く法螺貝の音は、信玄の耳にも刺さるように聞こえる。 これほどの音量は既に常福寺は上杉軍に包囲されているのを暗に示しており、謙信はしたり顔で相手を煽った。 「もはや同盟も何もない。この法螺貝により、我が軍の軍勢が大門街道を覆い尽くし甲斐へと目指す。特等席で甲斐が潰される様を見ておるがよい」 そして謙信は高笑いして上杉軍による武田領への侵攻の旨を叫び挙げる。 だがこの事態にも関わらずに信玄は依然として表情は曇る様子を見せないでおり、反射的に動きが止まってしまう。 「謙信、貴様は漁をした事はあるか?」 「……何をいっている、状況がわからんのか」 「儂も山育ちだから詳しい訳じゃないが、網の中に餌なりを入れておくと大量の魚が自ら飛び込むらしいぞ?」 信玄の笑みと共に法螺貝の音を掻き消すほどの音が沸き上がった。 爆発音だ。 上杉軍が奏でていた法螺貝の音は、一瞬にして地響きと共に爆発音へと移り変わったのである。
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