人の尊厳

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「謙信様ッ!!ご、御報告……御報告致しますッ!!」 全方向から鳴っていた法螺貝の音すら吹き飛ばす爆発音と共に、杉兵が血相を変えて襖を引き開けた。 そして動揺のあまりに泡を食った様子で床に頭を擦らせて震える口を開ける。 「大門街道から多数の爆発ッ!!ふ……ふっ、布陣中の我が軍に甚大な被害が見受けられますッ!!」 上杉兵の報告を聞いた謙信は鋭い目付きで信玄を刺し、刀を引き抜いて迫る。 「謀るのだな……貴様もこの我を謀るのだな」 迫り来る謙信に対し武田兵は立ち塞がろうとするが、目にも止まらぬ一閃により一太刀で叩き切られしまう。 そのまま血肉弾けた武田兵の骸を踏み潰し、続けて刀を振り信玄の右耳を切り落とした。 しかし耳を落とされた信玄本人は、にんまりと笑みを浮かべて相手を見て、逆に眼の合った謙信が威圧され一歩下がる。 「どうだ、謙信?よい音色であろう?」 「このまま生きて帰れると思っているのか」 「先程言っただろうが、儂は餌だとな」 怒り狂う謙信を見て、腹を抱えて笑う信玄は言葉を続ける。 「上杉家が貴様の独裁体制というのは調べをつけておる。独裁とは命令権限の統一化を成せるが、頭が無くなれば崩すのは易い」 「貴様……我を確実に呼び込むために常福寺へ来たと言うか、端から死ぬつもりで」 信玄は謙信を確実に仕留める為の間合いを得るために、罠と知りながら常福寺に入った。 だが、それ即ち信玄とて只では済まないと眼に見えている筈にも関わらず、笑みを絶やさない。 「愚か者め、儂は上杉軍数万を全員騙して見せたのだ。これほど痛快な事柄があろうが」 そして信玄は最後まで笑い、最後まで敵を欺き続けたまま謙信の刀を受けた。
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