人の尊厳

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所狭しと掲げられる旗は武田家を示す四つ割菱に紛れ風林火山の旗指物が風に靡かれる。 そして勝頼の横に武田家が誇る精強部隊たる赤備えの指揮官、山県昌景が馬を並べて口を尖らせながら相手を見る。 「……信玄公は己が役割を果たされたぞ。残りの役割は貴様の役割だ諏訪の小僧……否、御屋形」 昌景の言葉に勝頼は鳥肌が立ち身震いしてしまう。 「お前に御屋形なんて言われると……その、何だ……気色悪い」 「はぁ!?お前っ、気色悪いって何て言い草だ、ゴラァ!!」 「気色悪い。柄にもなく畏まるな、気色悪い」 今まで散々仲違いをしていた彼の口から御屋形様と呼ばれ、驚きのあまりに勝頼は面を食らった表情で苦虫を噛み潰したような苦笑いまでしてしまう。 それを後ろから見ていた同じく武田家重臣たる馬場信房がカラカラと笑いながら前に出る。 「まぁ、確かに気色悪いがそう言うではない。これでも山県のはお主の事を認めようとしているのだぞ?」 「たくっ、んな事よりさっさと号令を出せ。信玄公の最後の策を引き継ぎ実行する覚悟の号令をな」 そして信房のフォローに勝頼は頭を掻きながら、昌景の忠告に頷いて後ろに控える武田軍と風林火山の旗指物を見据えて口を開く。 「者共ッ!!武田と上杉、強者はどちらだッ!!」 「武田ッ!!武田ッ!!武田ッ!!」 勝頼は声を荒げて武田軍を鼓舞し、兵たちも負けじと咆哮を挙げてそれに応える。 「者共ぉッ!!武田と上杉、勝者たる資格を持ち合わせているのはどちらだッ!!」 「武田ッッ!!!!武田ッッ!!!!武田ッッ!!!!」 「者共ぉぅッ!!さすれば歴史に名を刻めッ!!有象無象の蔓延る哀れな雑兵を叩き潰せぇッ!!」 「おおおおぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!!」 そして甲斐武田家第二十代当主、武田勝頼の命の元に武田軍15,000は上杉軍へ向かい突撃を開始した。
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