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何たる有り様かッ!!
弥太郎は怒号を発したかったが、音を立てて歯を食いしばり心中に押さえ込む。
謙信を説得しきれずに追撃を中止できなかった事は自身にも非があり、また誰かの失態などと論じている時ではないと心の整理をして深呼吸と共に吐き出す。
そして改めて周囲を見渡して火急だからこそ冷静に戦局を見極める。
上杉軍の側面は、武田軍の御自慢である騎馬軍が疾如風を体を成して対応の間も無く抑えられた。
また側面確保に合わせて徐如林の如くに的確な同時攻撃指示に、次いで山県と馬場軍の侵掠如火を思わせる怒濤の攻勢。
正面突破を試みようとも、高坂軍の不動如山の守りがそれを遮る。
「クソがッ!!こりゃ、無理だ」
風林火山を目の当たりにし、現状では包囲網の突破は難しいと判断した弥太郎は後方から味方の増援を待つしか手段はないと考えに至る。
もはや上杉軍の前列に於ける指揮系統は崩壊してしまい、上杉兵は個々に反撃するしかなく、更に密集してまともに動けずに為す術もないまま屍が重なり一刻の猶予もない。
「方陣を組ませいッ!!後続が到着するまで、その身に変えても謙信様を御守りするのだッ!!」
「御意ッ!!」
包囲網の突破を諦めた弥太郎は急遽として、防御態勢を整えさせ時間稼ぎに移行する。
だが、彼も素早い決断で指示するも、それを更に凌駕する者たちが陣を編成中の縫い目を抉じ開けた。
「我ら赤備ッ!!一番乗りぃッ!!」
「もう来やがったかッ!!」
名乗りと同時に斬り込みを仕掛けて来たのは、昌景の率いる赤備。
そして弥太郎は一人二人と敵を切り捨てるが、次々と突入される有り様に冷や汗を流す。
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