人の尊厳

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「謙信様ァァッ!!」 「どうした小島殿ッ!!余所見している暇などあるかッ!?」 「川中島の時に義信を見逃してやっただろうがッ!!今回は見逃してくれッ!!」 「覚えてないッ!!」 弥太郎は謙信を助けるべく駆けようとするも、昌景は依然として立ち塞がっており地団駄を踏む。 「随分と楽しそうだな、山県の。此方も御馳走にありつくかのう。第二陣、火縄用意」 そして弥太郎の焦りなど余所に、馬場軍は着々と再攻撃準備を整えており、謙信に多くの鉄砲の銃口が向けられる。 主君の危機に上杉兵は守ろうとするも、まともに一斉射撃を受けた事により護衛の兵は立ち上がれず地べたを這ってしまっている。 「謙信様ッ!!御逃げくだされッ!!御逃げくだされェェッ!!」 主が撃たれる。この事態に弥太郎は焦りと恐怖で血の涙が頬に伝い、喉が圧し潰れるほど荒げ吼えた。 だが、謙信は喚く味方を見向きもせずに手綱を引き寄せて、馬の頭を馬場軍へ向ける。 「……笑止」 馬場軍が仕掛ける前に謙信は馬の腹を蹴って走り出した。 「来おったか……皆々、狼狽えるな。第二陣は気にせず構えい」 「しょ、承知」 謙信と馬場軍には十分に距離は空いている。故にしっかりと鉄砲を構えて照準を整えた。 そして信房は手を振り上げて馬場兵は引き金に指をかける。 「放てぇい」 信房の号令と合わせて、また鉄砲が一斉に火蓋を切られた。数多の射撃は轟音として鳴り火薬の硝煙が辺りを包む。 飛び立つ鉄の弾は不規則な軌道を描きながら謙信に向かい牙を向く。
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