信玄最後の策

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塩田城。 かの城は小県郡北部に位置し、信濃に於ける弘法山全体を擁した当時有数の大きさを誇る山城であった。 また、過去にもこの城を巡って武田家と上杉家は鎬を削り、第一川中島合戦の折りには武田軍の本陣ともなっている因縁ある場でもある。 そして今まさに此処に一時撤退した武田軍の入城により再び戦場へ成り変わろうとした。 「御報告致しますッ!!上杉軍は正面門に集中的に兵を配置ッ!!尚、本陣は前山寺に置いたと思われますッ!!」 塩田城本丸には武田軍重臣たちが連ねており、百足衆の報告に拳を固く握る。 「兵力差はほぼ互角。にも関わらず、敵は正面から向かって来る気か」 「緒戦でもそうであったが、謙信の進む道であれば兵も考えなく進んでおった。なまじ強い分質が悪いわい」 塩田城は規模が大きい分堅牢ではあるも、侵入経路は幾つか存在する。だが上杉軍の配置は一つに絞られており、並々ならぬ執念すら感じ取れた。 正面から一ヵ所の集中力攻撃は武田軍にとって守りやすくはあるも、必然的に相応の犠牲も覚悟しなければならない。 「だが敵に警戒するべきは攻城のみに非ず、能登のような大規模な見せしめこそが士気に関わろうぞ」 重臣の一人が言った言葉に皆は目を細める。 武田家が懸念しているのは、過去に上杉家が能登で実行した虐殺が信濃で起こらないなど言えはしない。 目の前で虐殺など延々と続けられては兵の士気も低下する恐れがあり、実質この手法で七尾城も内から崩され落城している。 また、武田家が籠城に徹す故に民の救援にも行けないという事が、自国民の信頼にも大きく左右されてしまう。
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