信玄最後の策

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上杉軍の攻撃準備に勝頼は顔を顰めるも広げられる地図を見ながら喉を鳴らし、改めて口を開いた。 「まず状況を整理しよう。城の武器兵糧の蓄えは十分だな?」 「はっ、この塩田城には信玄様の御指示通りに籠城準備を整えております。兵糧に関しましては御入城された15,000名を抱えましても最低半年は問題なく廻せまする」 「重畳。父上は先を見通した備えを残してくださった」 信玄は上杉家との戦に備えて、既に塩田城に籠城の支度を命じていた。そして事は始まり功を成す。 また、南の敵である徳川家は三方ヶ原の戦いに於いて大損害を与え、東の北条家とも同盟は結んでいる。西の織田家は今や打開されたも多方面同時攻撃を受けた傷が残っている。 よって武田家は上杉家の一方向のみに軍勢を集中運用するという、彼はかなり前から籠城支度のみならず戦略的にも万全の準備をこの決戦の為に用意していた。 「かと言って、北条家は上杉家とも同盟を結んでいる。現状どちらにも加担せずに日和見を決め込む気だろうが、情勢が傾けばどうなるかも解からぬ」 「御意ッ」 かといって双方の疲弊を見計らって、どこぞが兵を差し向けないとも言えない。だからこそ威光を示すべく勝利を飾らなければならなかった。 「各々方、上杉家は独裁故に家臣共は謙信が居なくてはなにもできぬ泥人形に過ぎない。ならばこそ連合政権故に各が独立した我らであればこそ必ず打ち砕けよう」 勝頼の言葉に重臣たちは拳に力を入れて大きく頷く。 「長らく続いた上杉との因縁は此所で断つ、今一度に武田菱の旗の元に全てを蹂躙し勝利を皆の手に」 「御意ッ!!」 そして己の意気込みを宣言する勝頼に呼応して皆も声を挙げた。
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