信玄最後の策

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所変わって、上杉家本拠地たる越後の春日山城では若武者が目を点にして書状に目を通していた。 「なっ、なななな……何だこれは!?この書状はどういう事か!!」 「毘沙門天様からの書状に失敬です景虎殿」 「そんな事を言っている内容ではないぞ!!」 そして謙信の養子の一人である上杉景虎は、手に持つ書状を床に叩きつけて頭を抱える。 対してもう一人の養子である上杉顕景は表情を変えずに投げ捨てられたそれを拾い上げた。 「この内容を見ても尚、澄ました顔でいるか顕景!!何故に武田と戦を始めてしまうか……」 「毘沙門天様が所望された戦です」 「今の上杉家にその余裕があると思ってるのか……お主も後継者の一人なら夢だけでなく現実も見てくれ」 謙信からの書状の内容は武田家を潰すべく増援を求めるとの事であり、景虎は心底うんざりした顔で深い溜め息を吐き出す。 「……武田家とは同盟を結びに行かれたのではないのか……兵はただの脅しに随行させただけではないのか」 上杉家は北条家とは同盟は結んではいるも、それ以外の周辺国はほぼ全て敵であるのだ。 東の豪族との争乱は収まる気配はなく、西では織田家と手取川で対峙しており抑止力として大軍を必要としてしまっている。 さらに現状で尤も問題視されていたのは、占領地である能登と越中の一揆であり、数えきれないほどの蜂起の為に鎮圧の軍勢も送らなければならない。 兎に角、上杉家には本国にすら予備兵力は存在しておらず、 寧ろ武田家との戦争状態に伴い兵力不足ですらあるのだった。
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