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「毘沙門天様は増援を求めております。急ぎ捻出して下され景虎殿……」
「兵力など何処にもない!!軍勢を四方に派遣しているせいで本国にすら守備兵をまったく置いていないのだぞ!!」
相も変わらず妄信的な言葉を並べる顕景に腹を立ち叫んでしまう。
「兵力なら手取川や鎮圧軍を戻らせればよいと、無理なら民を強制徴集されれば」
「簡単に言うな!!他方面が破られたら武田どころの騒ぎでないぞ!!そもそも民など徴集したところで武器もありはしない!!」
次に何を言い出すかと思えば、民を徴集して戦地に送り出せば融通できないかと言うも配給する武器すらない。
そんな怒号を聞いて顕景は、小さく首を振ってゆっくりと口を開く。
「国家存亡の危機に民の強制徴集は止むなしです。鉱山の者も農民も集めれば一日で3,000は集められましょう」
「武器が無いと言ってるだろう」
「あるではないですか、外に」
「……外?」
「港に貿易に来た南蛮船が停泊しています。彼らは火縄の類いを売っている筈です」
あろう事か南蛮船を襲撃して武器を奪うという内容に景虎は目を見開いて驚きを露にする。
もしもこれが成功したとしても、公になれば上杉家の信頼は地に落ちて今後貿易の類いは無くなり財政は破綻する事は瞭然であった。
「すぐに守備軍に命じて南蛮船を襲撃させます。軒猿衆は陣触れを報せ」
「待て顕景!!一つの勝利の為に全てを犠牲にするつもりか!?」
その様な事をすれば上杉家は定款の内に壊死してしまう。滅亡を危惧した景虎は顕景の肩を掴み静止させるも、彼は振り返ることなく歩み続ける。
「……皆は毘沙門天様の武力を信仰なされています。この意味が解りますね?」
「お主……それは」
そして最後に言葉を残して城を出た。
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