信玄最後の策

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「攻め懸かれぇい!!まずは外堀を埋めろ!!」 勝頼が塩田城に入城した後日、上杉軍による一斉攻撃が開始された。 先鋒を任されるは、武芸に秀でた勇将たる松本景繁。彼は正面門を突破すべく真っ向から攻撃する。 「守りきるのだ!!出来ぬことは望まぬ、やれる事をやれ!!」 対して正面門の総指揮官たる高坂昌信が、武田兵を手足の如く自在に操り敵を押し止めていた。 「景繁様ッ!!第一陣の損耗凡そ三割ですッ!!」 「二陣は何をしているか!!外堀を埋める一陣の援護が弱いぞ!!」 しかし景繁本人も弓矢を射ち掛けて攻城に気合いを入れるが、如何せん塩田城の堅牢な防御施設を突破する糸口が見えなかった。 前もってこの城が戦場になることを予期していた信玄は増築を繰り返して万端な備えを見せつける。 まず正面門であるが、3~4mはあろう程の深い外堀が周囲を囲っており、これのせいで上杉軍の弓兵は射程距離まで近づく事もままならずに攻撃ができなかった。 また、外堀の向こう側に聳え立つは6mという高さの塀であり、この高さが武田兵の射程距離も飛躍的に上げて一方的に上杉兵を射る。 さらにそれだけに留まらず、正面門のすぐ内側には多数の櫓も普請済みである上に、門までの経路は一本道しか存在せず恰好の的となってしまう。 構造事態はよくある単純な造りではあるも、故に完成されつくした単純さこそが曲者である。 何故ならこれは数百年に及んで模範とされる形であり、つまりはそれほどの研究される月日がありながらも確実な突破手段が解明されない王道であるが為だ。 造りやすく守りやすい。この二つの要素こそが王道の由縁である。
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