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暫く双方は膠着状態へと陥るが、必要以上の矢弾を消費する事を懸念した昌信は次の段階に事を移す。
そして門の内側に兵を並べる山県昌景に目を合わせて互いに歯を見せる。
「征けるか、山県!!」
「おぅよッ!!待ちくたびれたぞッ!!」
昌景は問いかけに大声で応え、昌信は腕を振り上げて口を開く。
「正面門、開門せよッ!!」
昌信の命じた内容は開門命令。だが武田兵はその命に狼狽える事なく、迷わず実行に移して正面門はゆっくりと開いてゆく。
逆に突然の事態に上杉兵が驚愕する。守るべき門を自ら開けるなど思いもよらなかったからだ。
上杉軍はこの機に乗じて一気呵成に場内に雪崩れ込みたいところであったが、そうは問屋が卸さなかった。
「赤備ぇいッ!!前進せよッ!!」
「応ッ!!応ッ!!応ッッ!!」
開いた門の先には、武田軍最強の赤備が昌景を筆頭に一寸の乱れなく威風堂々と立ち塞がっている。
そして押し進むように赤備は歩みだし、圧倒的武力と城からの雨霰が如く降り注ぐ攻撃に上杉兵は次々と堀の下へ転がり落とされた。
この有り様に景繁は己の完敗を悟り、下唇を強く噛み血が流れる。
「……後退……我ら先鋒は後退せよ!!」
後退命令を出した景繁は、逃げ出す上杉兵を尻目に自らは迫る赤備に向かって走り出す。
完敗を喫した彼に残された選択はこれしかなかった。
このまま逃げ帰ったところで、今の上杉家では間違えなく首を落とされる。それおろか家内にも責を問われる恐れもあり得てしまう。
故に戦場で死するまで戦い忠節を示すしかなく、恐怖政治が優秀な勇士の命を散らせた。
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