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籠城戦二日目、緒戦では敗北を喫した上杉軍であったが事態は大きく動き出す。
上杉軍は武田軍からの射程範囲外まで下がって、それと同時にとある人物たちも並ばされていた。
その並べられている人物は信濃の民たちであり、籠城側の皆々は心に拭き切れぬ影が雨雲のように広がってしまう。
「高坂様……あれは」
「あの屑共が、能登と同じことをしでかすつもりか」
そして武田軍の誰もが懸念していた事態が始まる。
まず数十人ほど磔にされた民が前に出される。彼らの手足には多くの竹槍が貫かれており直接固定されていた。
続けて足元に藁を投げ入れだし、この光景に武田兵は固唾を呑む。
「火をつけい」
上杉将兵の言葉に次々と藁に火が点される松明を投げ入れた。
これにより民は足先から黒煙と共に徐々に昇ってくる火の手に包まれながら悲鳴を挙げる。
身の毛は燃え上がり皮膚は爛れ落ちる。されども火の勢いは強まるばかりであり、全身に駆けずり回る痛みにも関わらず決して即死には至らない。
苦痛はジリジリと時間を掛けて蝕んでゆき、男であろうが女であろうが童であろうが、例外なく人は見るに耐えない異臭の放つ黒い肉塊に変わる。
この地獄の淵を見せつけられた武田兵は怒りと憎悪により叫び荒げ、城から討って出ようとする者まで現れてしまう。
「山県様ッ!!出陣致しましょうッ!!目の前の民を助けられるのは我々だけですッ!!」
「……ッ、今は待てッ!!」
中には昌景に攻撃指示を仰ぐ者もいたが、武田将兵は歯をくいしばり足を止める。
処刑場の後ろには飛び道具を持ち待ち構えいる上杉兵が居り無闇な攻撃では撃退される事が眼に見えていたのだった。
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