信玄最後の策

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処刑は夜まで休む事なく延々と続いた。 これは火焙りの他にも故意的に急所を外した人体の切り刻みや捕虜同士の殺し合わせ、また馬と交配を強要させられて死に絶え、突かれる度に壊れた人形のように手足や首が力無く揺れ動く女子供の姿もあった。 死体は木々に吊るされ、吊るす木が足りない分は打ち捨てられてしまっており鳥や野犬が死肉を啄み喰らい、風が死臭を塩田城に運ぶ。 上杉兵は秩序無くした獣へと堕ち、民は人間たる事を無くされたモノへと堕とされる。武田兵の誰もが人々の悲痛の叫び声が耳の残り、無残な光景が脳裏に焼き付かれ眼を瞑るとそれが浮かび上がってしまう程である。 「上杉に夜襲を仕掛けるべきだ!!一人残らず殺してやる!!」 「そうだ報いだッ!!どうか御英断を山県様ッ!!」 これに怒りを抑えきれない武田兵は集結して夜営する上杉軍を攻めようと画策していた。 そして兵は口を揃えて昌景に号令を望むが、本人は頭を掻いて返答に困ってしまう。 昌景とて目の前で行われた行為に腸が煮えくり返る気分であるも、緒戦での城門付近なら兎も角、無闇やたらな出陣は待ち構えられ返り討ちは明白である。 かといって兵の不満を放置して膨らみ続けるといずれ弾けて軍全体に綻びが生じる。 何より武田家は基本的に攻める側の立場が主だっていた為、このような守る側の辱しめには不馴れでもあった。 「山県様が行かれるのなら、我らのみで行きまするッ!!」 「えぇい、やめんかッ!!」 そして我慢ならないと勝手に門を開けようとし、昌景はそれを止めるべく兵の首根っこを掴んで取り押さえる騒ぎとなってしまう。
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