信玄最後の策

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「……負傷者五十八名……お前は何をしているんだ、昌景」 「我が赤備は負けなしと思っていたがまだまだ温いな。鍛え直させんと」 「お前の反省点は鍛錬だけか」 出陣派と籠城派の乱闘を止めるべく、昌景も参加するも途中でどっちがどっちだが判らなくなりどちらも打ちのめすという事態になってしまっていた。 その結果、緒戦での防衛戦よりも怪我人が出てしまうという本末転倒な事までなってしまい本丸に呼び出される。 勝頼は無傷で五体満足の昌景を見て、やりたい放題やってくれたものだと若干引き気味で呆れてしまう。 「だが処刑を延々と見せられ、下の者が不満を募らせて暴発が連鎖するのは眼に見えておる。如何する総大将?」 「こうなった以上、出陣してしまった方が話が早いのでは」 昌景は説得が面倒になって拳で黙らせたが、何度もそんな事をするわけにもいかない為に信房はどうするかと問いかけ、続けて昌信は出陣を推すが勝頼は首を横に振る。 「いや、確かに兵力はほぼ互角であり決戦は行えなくもない。だが籠城にて刻を稼いでいる事には理由があるのだ」 「理由とな?」 頑なに籠城の意向を変えない勝頼は理由があると言い、意を決した表情で頷き言葉を続ける。 「父上が我らに残した策はもう一つある。それには刻が必要であり上杉軍をこの場に釘付けにせねばならぬのだ」 「信玄公の策と、如何なる策か」 「……今は言えぬ」 そして信玄の遺した策の為に籠城に徹さなければいけないと言うも、内容については口をつぐんでしまう。 「ともあれ、今は耐えてもらいたい。でないと父上の死までもが無駄に終わってしまう」 信玄まで引き合いに出されては、流石の家臣も言い返せず方針は籠城のままで決定された。
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