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「来ぬな。武田軍」
勝頼が籠城の旨を伝えたと同じ頃、城の外では報復として夜襲を警戒した上杉軍が密かに兵を整えていた。
そして上杉将兵たる小島弥太郎は大きなあくびをしながら槍を磨いて呟く。
武田軍は敗北の経験が少ないが故に強者としての自尊心が高く、目の前で挑発行為を受ければ直接叩いて来ると思い伏兵を用意していたのだが杞憂に終わる。
しかし正面から正々堂々と戦いたい心中である弥太郎から見て、能登や越中と続いて信濃の民まで虐殺をする行為に対しては受け入れがたくもあった。
「小島様、本陣より使番が到着致しました」
「如何なる内容か?」
「明日、塩田城を再攻撃を開始する為に陣に戻られよとの由。此方が仔細の書かれた書状で御座います」
そんな中で伝令が舞い込んできて書状を受け取るが、手に取ったそれを見て首を傾げる。
「何故に書状が二つあるのだ?」
「一つは本陣からの書状、もう一つは越後からで御座います」
「越後から?」
越後からの書状に疑問が拭いきれないまま広げて確認する。
本陣からの書状には、明日に越後から増援が到着次第に塩田城へ再攻勢を懸ける内容であり、それは理解できる。
しかしもう一つの越後からの書状に眉をひそめた。
「此処に増援を送る為に商船を襲い、越後中の民を徴集しただと!?」
書状は景虎が密かに送った物であり、この内容に面をくらい頭を抱えてしまう。
商船を襲ったなど他国に知れ渡る前に急ぎ隠蔽しなければならない。それに国中の民を集めたなど、田植えをする農民が居なくなり冬を越せない恐れがある。
要に景虎からの書状は、越後には戦争継続の力がない為に急いで終えてほしいというものでもあり、弥太郎は心中を察した。
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