信玄最後の策

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三日目の昼頃、上杉軍は再び塩田城に攻勢を仕掛けるべく準備を整えていた。 そして武田兵の誰しもは、上杉軍から姿を現したとある物に目を引いてどよめきが走る。 「しっ、正面より国崩しッ!!その数、四つッ!!」 「これは……不味いぞ」 とある物とは国崩し、即ち大砲の類であったのだった。 越後にて増援と共に武器弾薬を得るために顕景は商船を襲撃する。そして結果として火縄銃300丁、更に防衛用として船に積まれていた砲車4門の確保に成功したのである。 これらを民兵3,000と共に全て荷車に移し増援として送り出す。 そして到来した砲車を見て昌信は額に冷や汗を流し瞠目する。 当時の大砲の射程距離は300~400m。対して弓が30~50m、火縄銃が100mほどであり止める手立てがなかった。 これを機に上杉軍は砲車を十分に近づかせ、停止して装填作業に取り掛かり塩田城へ狙いを定める。 「者共ッッ、身を低くしろッッ!!」 昌信が咄嗟に頭を下げて叫ぶと同時に、複数の爆発音が一斉に耳に刺さった。 この頃の砲弾は炸薬を使用せず、いわゆる炸裂や爆発はしない鉄の弾を撃ち出すという、標的の破壊を目的としたものである。 また命中率も低く当たれば幸運といったほどであったが、逆に撃てば当たる攻城戦では絶大な効力を発揮する。 そして一斉に飛び立つ鉄の弾は、先日まで幾度も上杉軍の攻撃を防いだ城壁を障子を破るが如くに容易く撃ち抜き、後ろで隠れていた武田兵も吹き飛ばされた。 更に櫓の一つは支柱が破壊されてしまい、傾いてしまうという被害まで生じてしまう。
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