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士気旺盛な武田兵は昇り来る上杉兵を討ち蹴散らして奮闘を示す。そしてこの姿を見た弥太郎は大きく舌を打つ。
だが彼の眼光炯々たる鋭い目つきは、次なる標的を捉える。
それは城壁の内側に聳え立つ櫓。特に鉄砲が多く打ち出されている箇所に向かい馬を駆けた。
塩田城には二つの種類の櫓が立っており、一つは広い視界で射つための通常のもの、もう一つは四方に壁をつくり密封させて幾つかの鉄砲狭間が開いているものである。
この後者を標的と選択した弥太郎は、飛び迫る射撃に怯まず押し進む。
「二の矢は不要、これで十分なり」
弥太郎は馬を奔らしたままで弓矢に小さな筒を巻き付け、手綱から手を離してゆったりと構える。
そして筒に繋がっている導火線に火を着けて、櫓に対して真っ直ぐと視線を合わせた。
「神の祈りも庇護も必要なし……応えるのは我が腕のみッ!!」
狙いを定め弓矢から手を放ち、風に揺られながらも力強く飛翔する。
弓矢は弥太郎の狙い通りに、縦横数十cmほどしかない櫓の狭間へと吸い込まれて、次の瞬間に櫓は火を噴き爆発四散したのだった。
櫓の内部は鉄砲隊とそれを遺憾無く発揮させる為の大量の火薬を備えられていた。これを見通した弥太郎は弓矢に焙烙玉をくくりつけて撃ちだしており見事に引火させて破壊せしめたのである。
「櫓が倒れるぞぉぉッ!!に、にっ、逃げろぉぉッ!!」
そして燃え上がる櫓は大きく傾いて崩れ落ち、武田兵を押し潰して上杉兵は大喝采を挙げ勢いを取り戻す。
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