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三日目の夜、一時後退した上杉将兵は本陣にて評定を開いていた。
「謙信様は?」
「陣中に御籠りになられている。野戦に引きずり出すまで勝手にやれとのお達しだ」
だがそこには謙信の姿はない。彼が望む戦は野戦による総力戦であり、城攻めに対しては然したる興味を持たず評定に参加していなかった。
そのため、上杉将兵は揃って首を捻りながら次なる攻めを考える。
「増援により火縄は十分に揃ったが、国崩しの砲弾はいくつあるのだ?」
「八発だ。商船一隻に乗せられてた数などそんなもんだ」
「ぬぅ、全弾撃ち尽くしてでも初撃で正面門を突破しておきたかったものだ」
昼に使用した砲車であるが、弾となる鉄球はすでに半数を消費してしまっていた。
しかも武田軍の思わぬ反撃により攻勢は中断され、一気呵成に突破せしめる好機を逃したと口々に惜しむ。
だがそんな中で、一人だけしたり顔で喉を鳴らす者が居た。
「案ずることはない。かの正面門は今夜……否、城その物すら今夜落とせる機会が訪れる」
「はっ?何を言っておられるか河田殿?」
その者は先の戦いの折で信玄を信濃に引きずり出す交渉も務めた河田長親であり、彼は懐から一通の書状を取り出して皆の注意を集める。
「その書状は?」
「武田家譜代家老衆、小山田左兵衛尉信茂からの内応の書状だ」
「何ぃッ!?」
長親の口から出た言葉は、何と武田軍からの裏切りを約束する内容だと言う。
更に信茂といえば、武田信玄の従甥であり多くの先陣も任されている将でもある事からどよめきが走った。
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