信玄最後の策

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置かれた書状を見た弥太郎を始めとする将兵は状況が理解し切れず面を食らってしまう。 「待て……待ってくれ、河合殿……小山田左兵衛尉信茂の内応?話が急すぎて意味が解らないぞ」 「某が武田との外交の取締に携わること五年、その時から調略は始めていたのだ」 長親の話では武田との外交の度に調略を繰り返しており、その成果故であろうと豪語した。 だがそれだけでは弥太郎はいまいち納得しきれず困惑を示す。 「信茂の条件は、甲斐の守護代に勝頼の子である武王丸を立てて、後見人の座には自身が就くとの事らしい」 「んん、突拍子もないように見えるのだが……」 「また小山田は武功に対しての見返り不満を持っており、勝頼とも折り合いが悪いという話も漏らしておった。ここが機だとでも考えたのだろう」 「……相、わかった。それを信じるとして細かい内容を教えてくれ」 突然の事に弥太郎は心の霧が晴れぬ気持ちだが、これが真実だとすれば見逃すなどもっても他は言うまでもない。 ならば聞くだけ聞いてみようと話を続けさせる。 「武田家は我らが国崩しの弾数に余裕があると見通し違いをしているようだ。だからこそ半壊した正面門は放棄して、効力を分散させる為に後方の曲輪群にて迎え討つ腹つもりだそうだ」 「虚仮威しとしては上々であったか」 「そして小山田が後退の殿軍に命じられている為、門を開けて我らを迎え入れるとの事だ」 話によれば砲車を驚異的と判断した武田兵は後退する故、追撃して討つべきだという提案であったのだ。 「なるほど、その迎え入れが」 「あぁ、今夜だ」 そして長親はにんまりと笑い、書状を叩きつけた。
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