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「お待ちしておりました上杉の皆々様、拙者が小山田左兵衛尉信茂で御座る」
「おぉ、小山田殿自らとは痛み入る」
「当然ですとも。先導致しますのでお任せを」
門の向こうには数百人ほどの小山田兵と共に信茂本人が居り、この姿を見て長親が胸を撫で下ろす。
彼が側に居るというは、夜襲を受ける可能性が低くなるという事に繋がるからである。
「ただし、足元は悪いですが奥に居る武田兵に気取られぬように灯りは点けないままで宜しいですな?」
「心得ました。先導は御頼み申す」
ともあれ上杉軍は正面門を尻目に次々と入城を果たし、小山田軍一同と共に奥へと進んで行く。
そして暫く進むと高い曲輪群が多く建ち並んでおり、更に道は入り乱れて迷路の如くなってしまっている。
「大した拠点だ。こんな場所でまともに戦っては何れほどの被害を被ったか……ん?」
そんな曲輪群を首を上げて眺め、ふと前に視線を戻すと小山田軍の数が減っているように見えた。
「……三分の一くらい減ってないか?」
しかも小山田軍の足が次第に速くなっており、この光景に長親は胸を締め付けられるほどの恐怖心に襲われる。
「待てッ、小山田殿!!足並みを整えて頂けぬか!!」
慌てて小山田軍の背を追うが、距離開くばかりか闇夜が姿を隠し迷路の道が感覚を狂わせながら数が減っていっており、最終的に影も形もなくなってしまう。
罠だ。長親の心は大きな鼓動を波打ち、直ぐ様撤退命令を出そうとしたその時であった。
後方から幾つもの発砲音や叫び声が耳に突き刺さる。
そして曲輪群の上が次々と篝火で照らし出され、武田兵と共に四つ割菱の幡多が靡いていたのであった。
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