信玄最後の策

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信茂は偽りの内応を長親に送り、上杉軍は武田軍が武装を整えて待ち構える曲輪群に誘き出されてしまったのだった。 武田兵は曲輪の上から鴨撃ちの如く一方的に射撃を行い、上杉兵は為す術もなく崩れ地に倒れる。 この光景に長親は一瞬だけ呆けてしまうも、すぐ我に帰って自身の顔を殴り気を引き締めた。 「者共、抜刀おおぉぉぉぅうッ!!転進し死地を突破するッ!!」 長親の命令に上杉兵は慌てて武器を抜いて来た道に走り戻る。 だがしかし、戻った道には既に逆茂木が投げ捨てられており撤退の妨げとなり、また他の道を使おうにも入り乱れる道筋に散々となって各個撃破を受けた。 「河田様ッ!!道がありませぬッ!!」 「だったら作りゃ、よかろうが!!」 そう言うと長親は曲輪の崖肌に刀を突き刺し、足場として踏み上がってみせる。 曲輪に登り詰められた武田兵は、逆襲を受けて次々と突き落とされてしまう。だがこれに対し怯むことなく迎え討たんと長親に迫る。 「河田殿とお見受けしたッ!!この木曾伊予守義昌が御首頂戴致すッ!!」 「来い!!来いッ!!来おおぉぃぃッ!!河田豊前守は此処に居るぞぉぉッ!!」 「くっ、我らも臆するなッ!!木曾様に続けぇいッ!!」 そして武田将兵の一人である木曾義昌を始めとした多くの武田兵が、孤立しながらも奮闘し目立つ長親の首を求めて囲い詰めた。 だがいくら長槍で叩きつけられようと地に伏っする事なく踏ん張り、一髪千鈞の危機にも関わらず反比例するかの如くに声量は大きくなる。 この姿に誰もは死に逝く最後の足掻きに過ぎないと考えるが、義昌の眼には大きな違和感が立ち込めだしていた。
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