信玄最後の策

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長親の行動を見て義昌は疑念を抱く。 まるで源平合戦かのような敵を引き付ける名乗り挙げの上に将自らの刀を振るう大立ち回り。 あまりに目立ちすぎている。一目散に逃げを指示したにも関わらず行動が矛盾しているように見えたのだ。 「どうした武田!?某一人も止められぬなど、貴様ら所詮は有象無象の群れかッ!!」 かといって目の前で暴れる長親を放置する訳にはいかず、皆は猛獣を相手をするかのように離れて長槍で叩きつけ時間を掛けて浪費を狙う。 そして曲輪群に入り込んだ上杉兵を一通り駆逐して、後は彼だけという場面で義昌はまたとある事に気が付いて動きが止まってしまった。 義昌の視線の先には、曲輪群よりも奥地に備えられているとある場所であった。その場所の周辺が異様に明るく違和感を覚える。 この光景に気が付いたのは長親も同じであり、散々痛みつけられた傷など眼にもくれず腹を抱えて笑いだした。 「ふっはははははッ!!悪いな有象無象共ッ!!此度の化かし合いはこの河田の勝利ぞッ!!」 長親の高らかな勝利宣言に義昌は真意を理解し瞠目して歯軋りを立てる。 「ッう……してやられた!!半数は後方の兵糧庫へ急行しろ!!」 明るい理由は篝火ではなく火災である。そして燃えている位置は武田軍の生命線である兵糧庫が存在する場所だと理解して救援の指示を飛ばす。 長親は武田軍の罠に嵌まったのではなく、嵌められに来たのだった。 そして罠を仕掛けた側は攻め時を見極める為に必ず釘ずけになる。それを逆手に取り、別動隊が侵入して兵糧庫襲撃という急所を刺す。 肉を切らして骨を断つ。それが自身の死だとしても、ただ貪欲に勝利を欲するべく。
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