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籠城戦四日目の朝。
昨夜の戦闘の折に長親は陽動の務めを果たし、まんまと釣られた武田軍は兵糧庫を襲撃された。
そして襲撃隊も50名ほどの人数にも関わらず不退転の信念を持ち、数百人の武田軍に囲まれながらも兵糧庫が完全に焼け落ちるまで命を賭し道を譲らずにいたのである。
その為、兵糧庫は全焼してしまい、武田軍は想定していた長期的籠城は難しくなってしまった。
「くっぅそうがぁッ!!飯がなきゃ戦にならんぞ!!」
「いちいちデカい声を出さんでも聞こえとるわい」
この事態に昌景は床を叩きつけて怒りを露にし、言われなくても深刻さを理解している信房は深いため息をつく。
「ともあれ喰うもんがなくては籠城などできん。兵に仲間の死肉を食わせるわけにゃいかんぞ」
「もはや出陣しか無かろうて、御屋形ッ!!」
「……主らの言いたい事はわかる……わかってはいる」
武田将兵は口を揃えて出陣を推すのだが、肝心の勝頼は依然として決断に渋っており苦虫を噛み潰したように顔を顰める。
勝頼は迷っていた。信玄が残した最後の策にはどうしても時間を要する。
かといって周りを説得しようにも、策の内容は極めて成功率が低くもあるので言いにくく過信してしまっても大丈夫なのかという不安もあった。
だが出陣となれば十中八九あの謙信も出て、地理的優位を捨てて敵の望む戦を挑むのも危険が多い。
「御屋形ッ!!我らは戦場で死するは本望だが、飢えや衰弱の状態で心半場に死ぬなど御免被るッ!!」
「…………相、分かった。全軍で討ってでるぞッ!!支度をせぇいッ!!」
そして考え抜いた結果、勝頼は信玄の策を成す事は不可能と判断し全軍出陣の号令を発した。
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