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武田軍は朝方から出陣の支度を整え、昼過ぎには全軍準備を終えて勝頼は物見櫓の上に昇る。
櫓の上からは城外で布陣を済まし待ち構える上杉軍が見えており、正面からの決戦は避けようがなかった。
「御屋形、号令を」
「門を開けぇい」
「開門ッ!!開門せよッ!!」
軋む音が物々しく鳴りながら正面門が開いてゆき、それを見た上杉軍は威圧的に雄叫びのような狂乱を発す。
「毘沙門天様に勝利をッ!!勝利をッ!!勝利をッッ!!!!」
また謙信を示す毘の一字旗が靡いており、武田兵の皆は息を呑む。
「我らも負けるなぁッ!!声を挙げぇいッ!!」
「応ッ!!応ッ!!応ッッ!!!!」
互いは天に轟かせるが如く、滾り、沸き上がり、己が内に抑えきれぬ感情を隠すことなく吐き出して咆哮させ、この勢いに乗じて上杉家との因縁を終わらせるべく改めて号令を命じようとした。
だが不意に開いた口が止まる。
そして止まったのは勝頼だけでなく周囲の武田兵も同じであり、とあるものを見た驚きに咆哮が騒めきへと移り変わってゆく。
「嘘だろ……ここにきて軍勢が?」
「また上杉の増援か!?これ以上増えられたら数の均衡すら破綻してしまうぞ!!」
武田兵の皆々が不安げな言葉を溢してしまうその指差す場所は、布陣する上杉軍の後方。其処に5,000人もの軍勢が姿を現したのだ。
それを見て誰もが更に上杉軍の増援が到着してしまったのかと頭を抱えるが、勝頼の手が震える理由は別であった。
「……御屋形……あの軍勢の家紋、見えているか?」
「あぁ、遠目からだが間違いない」
突然の軍勢に怯む武田兵を余所に、勝頼と昌景は身を乗り出してその軍勢が掲げる旗を眼を細くして凝視する。
靡く織田木瓜の旗を。
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