一国二君

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岐阜城の一室に三人の者が顔を合わせており、その内の二人は血の気が引き驚きのあまり口が閉まらない表情をしていた。 「……父上が亡くなられた?」 武田軍と上杉軍が衝突した当日の夜、武田家歩き巫女たる望月千代女がとある報告をする。 その報告とは武田信玄の死去。これを信玄の娘たる松姫に暈す事なくハッキリと言ったのであった。 真剣な眼差しと共に発せられた突然の訃報は、まだ幼い松姫の心を押し潰してしまい、彼女は力無く崩れ落ちるように伏っしてしまう。 「まっ、松姫!!お気を確かに」 父の死に啜り泣く姿を見て織田家次期当主たる織田信忠が顔を青くさせながら背を撫でる。 そして暫く間を置き一息付いてから改めて千代女を見据えた。 「しかし望月殿、松姫に事を伝えるのはわかりますが……何故私にも伝えたのだ」 だがその前に信忠は大きな疑問を持つ。 信玄の死など云わば何としても隠し通したい極秘事項である筈だ。特に現在の織田家と武田家は対立状態であり、攻め時を伝えてしまっているものである。 「心得ている、これは時が来たら信玄様から織田の倅にも伝えろと命じられていたのよ」 「……信玄公が?」 「そして信玄様の願いをお前に伝える。此方は松という玉を出した、次はお前が出す番だ……だそうで」 千代女の言葉に信忠は一旦手を前に出して止め、話を頭の中で整理する。 「待ってくれ、何だその言いようは?まるで信玄公は自らが死ぬと解かっているかの様な内容ではないか」 「相違ない。病が故に死期を悟っていた信玄様は、自らを使い謙信を釣り上げた」 「謙信を釣った?……事態が急過ぎて何がなんやら」 信玄が死んだ。謙信を釣り上げた。信忠は突然次から次へと言われる話に戸惑いを隠せなかった。
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