一国二君

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ゆっくりではあるが着実に間合いを詰め始めた織田軍を見て上杉兵は狼狽する。 正面の武田軍だけならば、十分に押し通して行けたであろうが、突如として後ろを取られたなど動じない方が無理な話だ。 そしてこれを見た上杉将兵たる小島弥太郎も大きく舌を打ってどうするべきか考える。 軍を二分させて両方同時に相手をするか、どちらか一方に集中攻撃するか、はたまた撤退か。 だが弥太郎の考えが纏まらぬ内に上杉兵から更なるざわめきが走る。 「謙信様が前進を開始しましたッ!!」 「なっ!!」 総大将たる上杉謙信は、周りに具申を問う事なく武田軍の居る塩田城へ真っ直ぐ駆け出したのだ。だがこの行動に弥太郎は透かさず謙信の意図を汲み取る。 織田軍の動きは無駄な箇所が浮きだっていた。 まず敵に気が付かれずに背後を取ったにも関わらず奇襲ではなく姿の主張、また虚を突くわけでもなく余裕ある攻撃を仕掛けようとしている。 これは明らかに急造の連合故に意思疏通がままならず、また全力を出して戦う意思は無いとも見てとれた。 だからこそ謙信は、あくまでも武田軍を打開させれば織田家も戦う意味を無くし退くだろうと考えれる。 また、武田軍は未だ城から出ている最中であり、布陣の済ましていないからこそ一気呵成に叩けると。 謙信の行動は一見無謀に見えるも理に適っていた。だがしかし、弥太郎は目の前の現実を目の当たりにして瞠目しながら口を開く。 「一度足を御止めくだされッ!!兵が付いてきておりませぬッ!!」 謙信に続く上杉兵は数百人という僅かばかりだけであり、後の殆どの者は動けずに唖然とするだけであったのだった。
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