一国二君

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塩田城から一斉に数百本もの弓矢が飛び立つ光景を瞳に映す。そして空一面を黒く覆い尽くし攻撃を仕掛ける上杉軍に牙を剥いた。 多くの兵が身を守ることもできずに矢が突き刺さり、悲鳴と激憤が入り乱れ次々と馬から転げ落ち骸ばかりが進軍路に討ち捨てられる。 「来るぞ、槍衾」 「槍衾ッ!!構ぁえぇぇいッ!!」 されども謙信の脚は止まらず、武田勝頼は次いで武田兵に隊列を組み槍を並べ揃えて槍衾を展開させる。 これを見て弥太郎は冷や汗が流れるも、馬の腹を強く蹴り足を速めて謙信を追い抜き、槍衾に真っ直ぐと突撃を仕掛けた。 弥太郎は一切として速度を緩めずに突き構えられる槍に斬り込む。この斬り込みに彼の馬は突かれ崩れ倒れるが、怯むことなく飛び降りて槍衾の隊列を一人で叩き潰す。 「某こそは鬼小島ぁッ!!主、謙信様の道を切り開き、行く先は背を御守り通すッ!!」 この戦、もはや上杉軍が勝利を手にする為には此処で勝頼を殺す他なく、これが最後の機だと心得た。 そして弥太郎の獅子奮迅の一撃により開いた道に謙信は堂々と突き進む。 その主を背で見守る彼は手足を敵を殺す為だけに動かし続ける。切られようと射たれようと殺し続ける。共に留まり戦う味方が返り討ちに合おうとも仇をとるが如く殺し続ける。 弥太郎は謙信の武を信じている。誰よりも強く何よりも磨き上げられていると信じているからこそ。 「最後まで謙信に尽くすか、小島殿ッ!!」 「無論ッ!!もはや能書き不要、謙信様と同じく武で語ろうぞッ!!」 多勢に無勢にも関わらず孤軍奮闘する弥太郎を仕留めるべく山県昌景が攻めかかり、双方槍を交えて一歩も退かぬ攻防が始まる。
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