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勝頼は鬼神が如き勢いで武田兵を蹴散らし迫り来る謙信を眼を凝らして細める。
だがその眼は動揺や戸惑いなどの弱さではなく、憐れみともとれる眼差しであった。
「来るか謙信……また気高くも独りで」
屈強なる武田兵が束になっているにも関わらず、謙信一人の足を止める事が出来ない。
これほどの武を身に宿す為に何れほど血が滲む努力を重ね、何れほどの苦難苦節を乗り越えたのか。恐らく自身が同じ事をしようともこの武の一角にも届かぬやも知れぬと心に思う。
この場に於ては彼に勝る者は居ないだろうと、改めて痛感させられる。しかしだからこそ敗けはしないと確信した。
「さぁ、父上……地獄から某の釣りを御覧あれ」
勝頼は確実に謙信に距離を詰められる。なので一筋縄では止めれぬと理解している故に、まずは護衛の上杉兵を削ってゆき次々と脱落させた。
次いで手薄になった処で幾人の武田騎馬兵がとある物を手に持ち迫り駆ける。
「投げ掛けぇいッ!!」
「そぉぉぉぅれぇぇいッ!!」
武田騎馬兵は掛け声に合わせて、少し距離を開けながら通り際に謙信へ網を投げ掛ける。
そして投げつけられた多数の網に覆い被せられ、切れども切れども手足や具足に絡まりだしてしまう。
次いで二人一組で騎乗する第二陣も行動を開始し、続けて先端に鉤爪が付いた縄を投げつけて網目に引っ掛ける。
「よし、捕らえたッ!!馬を走らせてくれッ!!」
引っ掛かったのを確認した武田騎馬兵は、後ろの者が肩に縄を巻き付けて固定して、そのまま走り駆けた。
結果、謙信は網から抜け出せないまま何頭もの馬の力に引っ張られて引き摺り落とされたのである。
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