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勝頼は眉をひそめながら、改めて道を見渡す。
足元の土は固くなっており、これは先の戦いで上杉軍の万人以上が行軍路として使用した為に踏み固められた事を暗に示している。
だが逆に道筋は大勢の人々が往来したにも関わらず、足跡の類いが全く見受けられない。また運び込まれた筈の砲車の車輪の後すら見受けられなかった。
さらに言えば、上杉軍も慌てて撤退しており道が荒れて然るべきにも関わらず、あまりにも綺麗過ぎるのだ。
まるで意図的に痕跡を消したような。
「……んっ、この臭いはなんだ?」
続いて勝頼は鼻につく臭いに反応する。
「臭いで御座いますか?海が近いので潮の香りが風に乗っているのでは?」
潮の香り。確かに内地生まれの自分には嗅ぎ慣れないものだが、それに混じって四方から他の臭いも漂っている気がする。
嗅ぎ慣れた焼けたような臭い。勝頼は暫く集中していると、その正体にやっと気が付き戦慄を感じた。
「伏せぇぇぇええぃぃッ!!」
突然叫びだした勝頼に家臣たちは揃って眼を丸くさせるが、そんな驚きなどを余所に辺りの茂みや木々の中からけたたましい音が幾つも鳴り渡った。
そして音と同時に多数の武田兵が血肉弾かせて崩れ逝き、勝頼がつい今まで騎乗していた横に立つ馬も叫び挙げながら倒れる。
攻撃を受けて武田兵は言葉の意味を理解する。だが理解した処で左右からの奇襲銃撃に隊列は乱れ混乱が引き起こってしまう。
「てっ、敵襲ぅぅぅッ!!敵が討って出てきましたッ!!」
さらに森の中から数多の兵が抜刀し姿を現し斬り込みを仕掛け、瞬く間に乱戦へと持ち込まれてしまった。
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