一国二君

14/20
前へ
/761ページ
次へ
多くの兵が斬り込みを成す中、茂みに潜む一人の男が大きく舌を打った。 「あぁ、まったく……敵が妙な動きをした程度で勝手に動いてしまったか。願わくばもう少し引き寄せたかったが致し方ない」 そして男は愚痴を溢しながら大きく溜息をついて自身も刀を引き抜く。 「総員、突撃を敢行せよッ!!旗を揚げぇいッ!!」 「おおおおぉぉぉぉぉッッ!!!!」 掛け声と共に靡き翻す旗の紋は上杉家を象徴する竹に飛び雀。だが武田兵は奇襲にも大きく動揺するが、何よりもそれに交じる他の旗に釘づけとなる。 数多の竹に飛び雀の旗を差し置いて視線は注目されるものは毘の一字旗。謙信を掲げるそれが揚がっていた。 「拙者こそは、越後の意志を支えし者ッ!!上杉三郎景虎なりぃッ!!」 毘の一字旗の下に威風堂々と仁王立ちする男は、上杉景虎と名乗りを挙げて勝頼は全身から血の気が引くのを感じる。内乱をしている筈の彼がこの場に待ち伏せをしているなど予期せぬ事態であった。 間に合わなかったかッ!!勝頼は滾る怒りを上杉兵にぶつけながら顔を紅潮させる。 内乱を片手間に景虎本人が出張るとは考えられない。ならば既に終結してしまったというのが窺えた。 「撤退ぃぃぃッ!!全軍、撤退せよォォッ!!」 武田軍は強行軍に戦列が伸びきっており、満足な反撃が行えず危険だと判断して撤退を指示する。 勝頼は家臣から馬を借りて走り出すが、撤退中に更に現れた他の軍勢に唖然としてしまう。 「我こそは、越後の意志を継し者ッ!!上杉喜平次顕景、勝利は我が手中にありッ!!」 瞳に映ったのはもう一人の養子である顕景であり、彼もまた毘の一字旗と共に威風凛然が如く翻す。
/761ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4492人が本棚に入れています
本棚に追加