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時は遡り四日前、春日山城に謙信討死の報告が舞い込む。
そしてこの報告を耳に入れた際、景虎は直属の陪臣に耳打ちを受けており顕景よりも速く知り得る事となる。
「景虎様、これは千載一遇の好機と心得ます」
陪臣の言葉をすぐに理解した景虎は思わず身震いする。
「上杉を掌握するは今を逃す他ありませぬ。兵を興しましょう」
幸いな事に謙信は後継者を指命する事をなく死んでいる。さらに実子がいない故に養子であろうと後継者足り得る立場なのだ。
また兵を興せば、本家である北条家も参入し勝てる要素は多い。やるなら今しかない。
「……顕景の所在は」
「本丸に」
「ならば早急に身柄を抑えるぞ」
そしてこの説得に同調した彼は顕景を殺め、自身が上杉家の君主にならんと決断し行動に移した。
頭数の少ない景虎一派は、余計に兵は割くことなく武器庫や兵糧庫などと重要拠点を制圧せしめ、次いで本丸を抑えるべく向かう。
「者共、行くぞッ!!これより本丸に踏み込むッ!!」
「御意ッ!!」
景虎は刀を強く握り締めて本丸に突入する。中には顕景ただ一人が座り込んでおり、彼を捕らえるべく囲い詰めた。
「顕景、貴殿の身は此方で預からせて頂く」
だが四方から刀を突き付けられているにも関わらず顕景は一切として動じる事なく座したままである。
こんな事態で流石に動じな過ぎないかと顔を覗き込むと、彼は下唇を強く噛み血を流して声もなく大粒の涙を溢れださせていた。
今まで何があろうと動じる事のなかったにも関わらず、初めて見るその様子に若干引いてしまう。
「……景虎殿」
「おっ、おう」
「もぅ、何もかもどうでもいいです」
そして顕景は口元を血で真っ赤に染めながら弱音を吐いた。
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